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パラオで活躍するJICAボランティア

◆パラオからAlii!(こんにちは)

JICA ボランティア  後藤 喜久

 私の職場は、パラオ国際サンゴ礁センター(PICRC)内にある水族館です。PICRCはパラオのサンゴ礁とその周辺海域の調査研究、および海洋を主とした環境保全の教育・普及啓発を行う機関として、2001年に日本の無償資金協力によって設立された研究機関です。私は民間連携ボランティア(※)として、館内に設置されている映像設備の改善や、展示内容の充実を目的として派遣されました。映像設備の改善策として、来場者を楽しませるアトラクション機器(タッチパネル)の導入、サンゴ礁を保全するための環境教育を目的としたクイズの作成、研究機関が実施している研究内容の一般公開用展示資料の作成などを行っています。

(設置した映像機器)

PICRCは海外の大学との協同研究や、学生のインターンシップ、ボランティアの受け入れ等を行っており、パラオ人だけではなく、文化や習慣といった背景の違う様々な人たちとのコミュニケーションがあります。

私にとって会社の中では経験する機会が少ない、幅広い分野の人たちとの意思疎通や価値観を知ることができる貴重な体験であり、とても有意義な環境でボランティア活動が出来ていることに感謝しています。

私のボランティア活動の主旨が、少しでも多くの皆さんにサンゴや海洋生物の大切さを知り、興味を抱いてもらうとこなので、サンゴの生態について簡単に紹介しようと思います。

サンゴはイソギンチャクやクラゲの仲間で刺胞動物に含まれます。刺胞動物なので、サンゴの組織には毒針があり、種類によっては触ると痛烈な痛みを伴うものもあります。私も何度かサンゴの刺胞に刺されて痒い思いをしました。サンゴは褐虫藻という藻類の一種と共生していて、褐虫藻の光合成によって生成される糖、酸素やアミノ酸などを受け取ることによって成長し、体を構成しています。近年問題視されているサンゴの白化現象とは、サンゴの褐虫藻が少なくなることを言い、褐虫藻の数が減少すると、光合成によって生成されるサンゴの栄養源も減り、サンゴが死んでしまいます。

(水族館用の魚採集)

では何故サンゴが死ぬと問題なのでしょうか。それはサンゴ礁が、世界の海岸線の1/6を占め、海産魚種の25%が生息し、総漁獲高の10%を生み出していると言うデータがあるからです。経済的価値で言うと3000億円/年だそうです。サンゴ礁は海産魚類種の25%以上が生息する避難・産卵・保育空間であり、ブダイやハギなどのエサでもあるため、サンゴが死ぬとサンゴを利用している生物にとって大問題なのです。また、直接的には稚魚や幼魚、小型の魚への影響が大きいですが、食物連鎖のトップに位置するサメやマグロなどの大型魚へも最終的には影響します。

ところで、サメが人を襲うと言うイメージが強いですが、フロリダ大学の統計的には、サメに襲われる人は年間約10人で、ココナッツが落下して直撃する負傷者はその約15倍の150人になるそうです。獰猛そうなサメの危険性より、爽やか感のあふれるココナッツの方が危険だという皮肉な結果です。パラオは世界で始めてサメの保護区を設けた国で、ダイビングの調査中でも頻繁に沢山のサメを観察することができますが、襲われたことはありません。ちなみに人がフカヒレなど食用にサメを獲る数は、年間7000万匹にのぼるそうです。人がサメに恐怖を覚える前に、サメのほうが余程被害者です。

 サンゴの本題へ戻ります。海産魚類にとってサンゴは大切なので、守る必要があると言う話をしました。それではサンゴをどのように保護すれば良いのでしょうか。サンゴが死ぬ原因は、白化現象、土砂の堆積、オニヒトデなどの天敵による被害、ダイバーなどによる物理的な破壊、台風などの自然災害などがあります。しかしながら、どの要素が一番大きく影響しているのか、厳密には未だに良く分かっていない部分が多くあり、効果的な保護が難しい現状です。

(PICRCの同僚と)

そこで世界各国の研究者がサンゴの生態・環境調査を行っており、日本からも琉球大学や東京工業大学の研究者がJICAの資金援助のもと、PICRCと共同でサンゴ礁のモニタリングや研究を行うプロジェクト(P-CORIE)を実施しています。

私も今回のボランティア活動では、それらの研究内容を地域コミュニティへ分かりやすく伝える広報活動なども実施しました。残された活動期間が少なくなりましたが、今後もスタッフと協力して、PICRCへの来館者や地域住民がパラオの海洋環境を大切に思い、環境保護に興味を抱く事のできる設備や展示の工夫をしていきたいと思います。


※JICAではグローバルな視野や素養を備えた人材の育成といった企業のニーズに応えるよう、企業と連携してグローバル人材の育成に貢献するプログラム「民間連携ボランティア制度」を創設しています。民間連携ボランティア制度では、各企業のニーズに合わせ、受入れ国や要請内容、職種、派遣期間等をカスタマイズし、あらかじめ自分の専門性に合致した派遣先の業務内容に関して配属先が決まるので、業務の要望内容に戸惑う可能性が少ないというメリットがあります。