JICAボランティアエッセイ(小原晴子JV)

平成30年3月19日

ありがとう、パラオ

歯科衛生士 小原 晴子
 

 「ビートルナッツ…なんだそれ?」そんな疑問から私の活動は始まりました。歯科業界に12年いましたが見たことも聞いたこともないそのビートルナッツというものがパラオ人の歯をダメにしている。私はパラオ人の歯を守るために何ができるだろうか。
 
 パラオは来てみると日本の情緒が残っていて住みやすく、パラオ人も人なつっこくて愉快で助け合う事をとても大事にしている素敵な人達だと感じます。ホストファミリーも娘同然に接してくれ、私のことを心配してくれたりパラオのしきたりも教えてくれます。そんな暖かい人達から囲まれて始まったパラオの生活ですが、パラオの歯科事情は安易なものではありませんでした。
 私のベラウ国立病院での活動は現地歯科衛生士の指導とレベルの統一化、一般の方々への啓発活動、口腔ケア教育、スタッフが不足した場合の診療補助やクリーニングなどを主に行っています。日本で歯科衛生士になるためには2年か3年歯科衛生士学校に通い、国家試験に合格して歯科衛生士免許を取得しますが、パラオには歯科衛生士学校はありません。現地衛生士の10人は勤務した後から先輩や歯科医師から教わり、フィジーの大学の歯科医師による講習も受けながら経験を積んできていて、日本では歯科助手に相当する一般的なトレーニングの仕方と似ています。10人ほとんどが20年ほどの経験がある40代50代女性ということもあり、指導のアプローチの仕方に悩むこともありましたが、先ずは自分を受け入れてもらう事から始めました。
 活動を始めて3ヶ月頃から同僚衛生士指導として90分の講習を週に2回を2ヶ月間、その次の年は週2回を2ヶ月間と更に実技指導週3回を1ヶ月加えました。同僚個々の個性やレベルの違いも見えてきて、少しずつではありますがちょっとした変化も見られるようになりました。歯周病の治療にとても良いインスツルメントを各衛生士全員が持っていながらそれを使用している機会を見かけませんでしたが、その道具も指導した後から使用する衛生士が出てき始め、一緒に患者さんを診てくれないかとお願いされたときは嬉しかったです。日本では歯周病に普通に行われている経過観察もあまり見かけませんでした。痛みがなければ来なくなってしまうということありますが、衛生士は月ごとにシフトがあり、学校、診療所やヘルスセンターに行かなければいけない期間があるのも同じ衛生士が経過を追うことが難しいと点だとも感じます。
 難しさでいうならなんと言ってもビートルナッツ。パラオ人に歯周病の原因は知っているかと聞くと必ず返ってくる元気な答えが「ビートルナッツ!」直接的な原因ではないけれどほとんどのパラオ人が良くない物と分かっていても止められない。私も止められないそのビートルナッツがどんなものか興味があり何度か試してみました。独特の苦みや臭い、クラクラしてきて繊維が歯と歯の間に挟まります。やはり歯や健康に良い物ではないことが実感できました。私の密かな目標は咬んでる衛生士達を止めさせたいことでした。口腔衛生を指導する立場の衛生士、そして歯科医師も含めて歯科では約7割のスタッフが咬んでいます。ビートルナッツはパラオの文化や人との繋がりに根強く関わっているのも徐々に分かってきました。外国人である外から来た私がむやみに止めろというのも気が引けます。個人的には咬んだとしてもせめて1日1~3個でコントロールできるようになってほしいと思っています(もちろん止めることができればそれに越したことはないですが)。患者さんにもっと基本的な歯科指導も必要と感じましたのでJICAへ機材の支援を申請し、待合室に患者指導用のモニターを設置しました。指導用のスライドを作成して流し始め、衛生士と一緒に歯科の基本的な知識や予防に関してのビデオも作成中です。徐々に生活習慣病や食事など健康に関することを幅広く流していきたいと考えています。私の2年3ヶ月間の活動が現時点ではまだ大きな変化が見られないのは残念ですが、歯科事情やパラオに今後少しでも良い変化をもたらすと良いなと思います。
 残りわずかとなりましたが、私を受け入れて下さったホストファミリーや活動場所を始め、関わって下さった方々に感謝しながら少しでもパラオに貢献出来るように引き続き活動していきたいと思います。パラオに来ないと分からなかったことをたくさん学ぶことができましたし、パラオで出逢えた皆さまにも感謝致します。パラオに来て活動ができてとてもかけがえのない経験となりました。ありがとうございました。