わたしが見たパラオ

平成29年8月9日
コンピュータ技術 齊藤良子

2015年7月にパラオに来て, 早くも2年が経とうとしています.
わたしは首都・マルキョクにある国会議事堂のICT室で, 同僚とともに議会内のシステムの管理や改善, そして同僚への技術移転を行っています. ICT室は私の他にパラオ人スタッフが2人という小規模な部署で, 主に上下院・総務部の業務に必要なネットワークの維持管理とコンピュータ関連の導入・メンテナンスのサポートを主要業務としています.
 
配属されて一番初めに感じたことは, 人的資源の薄さでした. 国会議事堂は少なくとも見た目には立派な建物で, 屋内の配線設備や機材も思ったより豊富にありました. でも, それらはしっかり管理されているとは言えなかったのです. ネットワーク機器の配線は設置業者が作ったと思われる資料から乖離し, サーバに関してはどんなサーバが存在するのかの資料すらなく, 当時1人だったスタッフはその情報をよく把握していませんでした.
加えてこの国では電気やインターネットサービスが止まることが多いため, ひとたびトラブルが起きればすべてを手探りで辿って対応しなければならず, 解決できなければ外部の技術者に依頼して場当たり的に対応. その資料はどこにも残されず, また新たな火種となる. そんな状況でした.
 
わたしが来る以前のICT部署の負担は重く, 新たなスタッフを探しましたが必要最低限の知識を持った技術者を探すのさえ, この国ではとても大変なことでした. 若い頃にIT技術に接して興味を持つ人が少なく, いたとしても, 小さなこの国で知識や技術を習得することは難しく, 海外に出てしまえば多くの人はそのまま海外に住み着いてしまう. この国に残った数少ない技術者や外国からやってきた貴重な労働者も他の機関や私企業との取り合いです. ICT部署は何とか1人の同僚を確保しましたが, 技術職の人材不足がありありと感じられる一件でした.
 
同僚が増えてからは本格的に活動を開始し, トラブル対応等を通して技術的な支援も増えてきました.  しかし当初, 彼らはメモをとらず, わたしが作成した資料も読まず, わからないことには手もつけませんでした. 彼らの知識にないことはまず私が対応して, 後で満足ゆくまで口頭で説明をしなければならないのでした. 苦手な英語で必死に説明したおかげでわたしの英語は部分的に向上しましたが, 彼らの技術はそう簡単には向上しませんでした. 彼らが怠慢だということではありません. 知識は吸収したがりますし, 何度か同じことをすれば, そのトラブルには対応できるようになります. しかし, 技術を習得する上で本当に大切なのはケーススタディを重ねることだけではなく, 何よりまずは「考える」そして「やってみる」ことです. この姿勢が彼らだけでなく, 多くのパラオ人に欠けているように感じられました.
 
こういった姿勢は, 一朝一夕で身につくものではありません. こどもの頃から家庭や学校での教育を通して自然と感じ取ってゆくものだと思います. そういった意味では, 今後高等教育での技術指導以上に幼少時の教育改善に期待を寄せています.
 
さて, わたしが口を酸っぱくして言い続けたせいか, 最近同僚は時々ですが「やってみるから後ろで見ていて!」と言ってくれるようになりました. わたしの両親と殆ど変わらない年齢のカウンターパートを, 作業時にはハラハラしながら見守っています. お互いに気難しいところもあり時々喧嘩もしますが, それなりにいい関係を築けたと思っています. もう1人の同僚も, 職場から少し離れた家まで嫌な顔ひとつせずほぼ毎日送迎してくれます.
 
パラオ人の多くに共通した性質として, 他人に寛容で, おしゃべり好きで, 食べ物を人に分けたがるところがあるようです. パソコンの困りごとを解決したらお菓子をくれたり, わたしが弁当を持っていない日は自分たちのお昼ごはんをわけてくれたりします. そしてもれなく「日本のどこから来たの?」「パラオでボーイフレンドはできた?」と話をしてきます. 最初は仕事中に同じ話を何度も聞かれることに苛立つこともあったのですが, 今では彼らなりに気を使ってコミュニケーションしてくれていたのかなと思います.
 
おしゃべり好きは仕事以外でも健在です. マルキョクのおばあさんたちは私が出勤する朝7時半頃には集会所でくつろぎながらおしゃべり, ホームステイ先の家でもしょっちゅうお客さんが来てホストファミリーとおしゃべりしています(まじめなミーティングのときもあります). そして私がマルキョクの通りを散歩していると, 私が知っている人も知らない人も「Hi, Ryoko!」と話しかけてきます. 釣り人に魚をもらったこともありました. 日本ではまずありえないことで, 小さな島国の温かい人柄を感じることができます. 加えて殆どの人は日本人に好意的で, 日本語で話しかけられるなど驚かされることはあれ, 嫌な思いをすることはまずありません.
 
マルキョクはパラオの首都ですが, 商業施設やアパートが立ち並ぶ(?)コロールからは車で約1時間, 国会議事堂・司法省・大統領府の建物のほかは民家がパラパラとあるだけの田舎町です. 観光客も多少訪れますが, メインストリートの海岸通りは人通りも少なく, とても静かです. ステイ先は海のすぐ側を走るメインストリートよりやや高い位置にあるため, 東の海を一望することができます. 休日の朝ゆっくり起きて, 静かな海を眺めながらサンドイッチをつまみ, コーヒーを飲むのはこの上なく贅沢な日常です. そんな日常もあとわずか. 仕事も自然もおしゃべりも(笑), 全力で楽しんで帰りたいと思います.