JICAボランティアエッセイ(桑原JV)

2020/4/3
優しさの8キロ
 
桑原 明子/ 小学校教諭
 
パラオの人々は食べることが好きだ。朝食を食べてから出勤しているはずなのに,出勤してまた何かを食べている。子供達のスナックタイムに自分も何か食べる。昼食も山盛りの給食を食べる。子供が帰ればおやつタイム。家に帰り,夕食を食べる。夜中にお腹が減ると夜食を食べる。朝食の後にドーナツ。休憩時間にサッポロイチバン。放課後にスナック菓子。甘いものもしょっぱいものも満遍なく楽しむ。きゅうりにクールエイド(粉末ジュース)と味噌を混ぜたものをつけたり,おかきとチョコレートを一緒に食べたりと味の変化も楽しむ。人のいるところに食べ物がある。
パラオでは一緒に食べることがコミュニケーションだ。独り占めはしない。みんなで共有が基本である。家族を大切にするパラオらしい文化である。
日本から来た私も例外ではない。学校に出勤すれば仕事より先に「これ食べなさい!」 「おいしいよ!」と食べ物をすすめられ,お昼になると「もっと食べなさい」と子供の三倍量のご飯とおかずを盛られる。ストアでお菓子を買ってくる時は私の分の甘いコーヒーを買ってきてくれる。夕食を食べ終わった後に,「これはあなたのよ」とまるまるいっぴきのロブスターが突如食卓に現れることもある。パラオ人は私が「これ美味しいね」と言った食べ物を本当によく覚えている。一度言ったものは何度でも出てくるし,たくさんくれる。お腹がいっぱいと言ってもくれる。
 
「あなたはとても痩せているから病気になってしまう。いっぱい食べなさい。」
「運動するんだから,いっぱい食べないとエネルギーが足りなくなるわよ。」
これは私が食べ物を断った時に言われる言葉だ。ところが私は別に言われるほど痩せてはいない。これでもか!というくらい平均値である。そして朝から食べすぎてむしろ運動に支障をきたしている。給食を食べすぎて午後は睡魔との闘いである。
そんなパラオ人の優しさを全身で受けとめた結果,パラオに来てからたった3ヶ月であれよあれよと8キロも太った。まさか,体育を教えに来たのに自分がこんな勢いで太ってしまうとは想像だにしていなかった。筋トレや有酸素運動を慌てて始め,5ヶ月でもとの体重に戻る。その後は多少の増加はあるもののなんとか一定の数値に落ち着かせられるようになった。そしていつしか「アキコは食べても太らないからうらやましい」と言われるようになった。
 
私の陰の努力はさておき,この食べても太らないように見える現象は私の活動にプラスに働いた。担任の先生たちは「アキコみたいに運動したらヘルシーになるのでは」と思ったようだ。そして自分たちも子供達の授業に混ざって一緒に運動し始めたのである。もちろんまだ疲れを知らないうえに身体が柔軟な子供達に与えている課題についていけず,時には準備運動でリタイアする先生もたくさんいたが,運動に興味をもってくれたことや子供達の体育の授業に積極的になってくれたことはとてもうれしかった。
 
私の送別会。いつもご飯を山盛りによそってくれるママン(給食のおばちゃん)たちは私のためにたくさんのご飯を作ってくれた。いつも野菜野菜言っているからか,給食では出たことのないたっぷり野菜のサラダもあった。そして,私にだけマングローブ蟹まるまるいっぴきが出された。パラオの習慣に倣ってシェアしようとしたら「これはあなたのものだからひとりで食べなさい」と言われた。先生からいただいたおそろいのTシャツには“Foodie”(美味しいもの大好き,などの意味)とプリントされていた。
 
活動はうまくいっていない期間のほうがずっと長く,ずっと低迷期だった。こんなにうまくいかないなら日本に帰ろうかとずっと悩んでいた。それでもパラオ人は優しい言葉と「食べ物」で励ましてくれた。
 
日本の学校に戻ればパラオでは考えられないレベルの激務が待っているだろう。ずっとずっと日本に帰ることを心待ちにしていた私だけれど,パラオ人からの優しさで増えたこの体重が元に戻る頃にはパラオを懐かしく思うかもしれない。